2014年4月19日土曜日

舞台芸術界の鬼才ロバート・ウィルソンの5時間にもおよぶ幻のオペラ『Einstein on the Beach』ワールドツアー

コンテンポラリーダンスを観るのが大好きで数年前から毎月、多いときは毎週観に行ってるのですが、最近は舞台芸術まで広げて、演劇やオペラもときどき観ることにしてます。先日、秋から冬にかけて毎年パリで開催される舞台芸術の祭典、Festival d'automne a paris の今季の公演がとうとうすべて終わってしまいました。今回フィーチャーされていたのは、舞台芸術界の鬼才と称され世界中からコアなファンを集めている、ロバート・ウィルソン。彼は、このFestival d'automne a parisが始まった40年前から計18回も招聘されている常連で、今季は3つも作品を引提げてパリへやってきました。そして同時期にルーブル美術館でアートワークの展示やパフォーマンスもあり、年末から年始にかけて、パリのあちこちの劇場や美術館ではロバート・ウィルソン祭のようでした。私は、これまで日にちが合わなかったり、チケットが完売してしまっていたりとなかなか観る機会がなかったのですが、2年越しの思いでやっと彼の手がけたオペラ『Einstein on the Beach』と、演劇『Peter Pan』を観ることができました。
Einstein_On_The_Beach_2
[youtube=http://www.youtube.com/watch?v=1Jkr5TNcF9g#t=66]
『Einstein on the Beach』は、その題名のとおり物理学者のアルベルト・アインシュタインをテーマにし、これまでのオペラの伝統、舞台芸術の常識を壊したアヴァンギャルドな作品。1976年にフランスのアヴィニョン演劇祭で初演され、世界中をまわり大成功を収めました。2012年から始まった再演のワールドツアーでロンドンやニューヨークをめぐって、今年やってきたパリ公演はシャトレ劇場で上演されました。いつもより開演時間が早いにも関わらず、ものすごい人が詰めかけ、劇場はごった返し。まだ全員が着席していないのにすでに舞台に人が出てきていて、プロローグが始まりました。4幕と5つの間奏、そしてダンス2幕の構成で全部でなんと5時間弱。休憩も挟まないので、劇場の出入りが自由にでき、間奏に入るたびにたくさんの観客が立ったり戻ってきたりしてたのには本当にびっくりしました。
Einstein_On_The_Beach_3
想像する伝統的なオペラとはまるでかってが違いました。ストーリーやナレーションもないから、感情移入することも続きを期待したりすることもありません。それだけに、頭の思考回路を通さないで、舞台の壮大で幻想的な視覚的イメージと、時間の感覚を揺るがせ音に酔ってゆらゆらしてくるミニマルミュージックが全身に直接突き刺さってきました。舞台全部に共通しているのが、アインシュタインの見た目、ボサボサの髪をゆらしたおじいちゃん(=サスペンダーにハイウエストのズボン)という様相だけ。そして幕の前後の脈略はなく、それぞれの電車、裁判所、宇宙船のシーンに分かれ、アインシュタインの相対性理論、統一場理論を表現。裁判所は化学実験室のようだったし、上の写真のラストのシーンでは原子力爆弾をほのめかしてるように感じるところも。また、動きに人間身が感じられなく、機械みたいなゆっくりでぎこちなさと、50年代のアメリカのポスターのようなぎっとりしてのっぺりした顔つき。すべてのテクノロジーの発展が必ずしもよいことだけじゃなく、同様に破滅をもたらすこともあり、つかんでいたと思った幸せは虚構だったのかなと思って、寂しい気分になったりしました。
作曲家のフィリップ・グラスとコラボレーションした最初の作品で、音楽も秀逸。豪華なオーケストラの代わりに、シンセサイザーや古代楽器を使ったり、話言葉の台詞らしいものは一切ないし、歌詞も言葉ではなく数字や音節のみ。民族音楽や宗教音楽からインスピレーションを得ていて、少しずつ変化しながら何度も繰り返されていきます。その様子は宗教のよう。呪文を唱えていたり何かの儀式を執り行っているようにも感じてきて、観客はそれに魅せられた参列する巡礼者。5時間もその場にとどまらせていたのには、何かに取り憑かれたとしか思えません。

Peter_Pan_Wilson_1
それからもう一つは、パリ私立劇場で上演された、新作の『Peter Pan』。誰もが知ってる物語を、CocoRosieの音楽に乗せて、ロバート・ウィルソン流のちょっと毒のある不思議な、大人に向けたピーターパンの世界を繰り広げる。全員白塗りで不気味な形相はまるで死神のようだし、ピーターパンもやんちゃな少年ではなく影のある青年風で、子どもだけの国のネバーランドに、死の世界を見ているみたいでした。ベッドが羊になっていたり、乳母役の犬がメイド服を着ていたり、空を飛んでいくときの雲、タイガーリリーがいる崖など、重要なシーンの舞台美術が本当に素晴らしいのは言うまでもなく、それに加えてベルリンを拠点とする劇団Berliner Ensembleの団員たちの演技がとってもよかったです!ファンになってしまいました。ベルリンでもいつか彼らの舞台を観てみたいなと思います。
Peter_Pan_Wilson_2
Robert_Wilson_CocoRosie
ロバート・ウィルソンと、歌と音楽を担当したCocoRosie の二人。
IMG_3796

ロバート・ウィルソンは、1941年アメリカのテキサス生まれ。大学でビジネスや建築を学ぶ。舞台については全く教育を受けていないと言ってます。1968年に、実験的なパフォーマンスカンパニー、the Byrd Hoffman School of Byrds を立ち上げ、彼らと舞台作品を作っていきます。公演時間が非常に長いことが彼の作品の特徴で、7日間山の頂上で演じられたり、84年のロサンゼルスオリンピックのために計画されていた『the CIVIL warS』は12時間だった。結局予算の関係ですべて中止になってしまったという逸話が表してるように、とにかく尋常じゃないスケールの作品が多い。
[vimeo=http://vimeo.com/81692749]
IMG_3809

それから舞台の他にも、アート作品も創っていて、1993年のベネチアビエンナーレでは彫刻作品で金獅子賞を受賞してます。そんな彼がルーブル美術館で展示したのは、『Living Rooms』というインスタレーション。ニューヨークから2時間のところに、ロバート・ウィルソンのアートコレクションや、作品アーカイブを収蔵しているThe Watermill Centerという場所があり、そこはアーティストインレジデンスとなっていて、若手のパフォーミングアーティストが毎年夏に招かれている。アートに囲まれた毎日の生活の中で、それらが常にインスピレーションソースとなっている、そんな場所をイメージしている。また、別の場所では、レディ・ガガが絵画の中の女性に扮した、ポートレートのビデオアート作品も展示されてました。
実は6月にもロバート・ウィルソンのオペラ座での公演が待っています。私の中でダンスではアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルが一番ですが、舞台では今のところロバート・ウィルソンが一番。ぜひぜひ機会があったら観てみてください!
Facebook作りました。パリの生活、いろいろ載せてます。
https://www.facebook.com/taconnotation

0 件のコメント:

コメントを投稿