2014年5月27日火曜日

今年の真夜中の美術館めぐりは、グラン・パレでビル・ヴィオラの大回顧展!La nuit des musees

毎年恒例になっている、真夜中に美術館が無料で開放されるイベント、La nuit des musees 美術館の夜ですが、今年は、パリの真ん中のセーヌ川のほとりにある、グラン・パレに行きました。3月からすでに始まっていた、ビル・ヴィオラ展にどうしても行きたかったからです。グラン・パレはとっても広くて展示室をいくつも持っているので、同時に3-4つの展覧会を催しています。それぞれ入り口も別々になっているので、どこで何をやっているのか確かめていかないと、ぐるっと一周しないとたどり着けないってことにもなるので注意です。数時間並ぶのを覚悟で1時間半前に着いたら、誰もいなくて拍子抜けしてしまいました。
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 The Dreamers (détail), 2013 Madison Corn, Collection Pinault, Photo Kira Perov
ビル・ヴィオラのことは、私の世代以上なら知ってる人は多いと思います。大学生のとき森美術館の学生メンバーに入会していた私は、2006年のビル・ヴィオラのアジアで初めての大規模な回顧展だった、『はつゆめ』展に一人で何度も通っていました。現在は学生メンバーは廃止されてるようですが、入会金5000円で美術館へ何回も行けて、イベント招待やいろんな特典があってお得なシステムでした。大学で映像の撮り方や編集の方法を教わったことで、中高生の頃はほとんど体験したことがなかったビデオアート、メディアアートに、すごく興味を持ち始めたころだったので、この展示はとても印象に残っています。見たことのない新しい手法(とは言っても、作られた年代は、70-90年代のもあったので、私が知らなかっただけ)を使って、恐ろしくなるほど死の世界を感じて衝撃を受けました。それに、ビデオを見てるのに見てないような、瞑想しているような気分がしてくる、何とも奇妙な体験でした。
[youtube=http://www.youtube.com/watch?v=Jg19GwNCJU0]
ビデオの展示は、最初から最後まで全部見ていると長いし、疲れるので、見たいものを順に選びながら進みました。今回の展示では、作品の名前、年代などのキャプション以外の説明はありませんでした。必要最低限にして、説明されすぎることによって、作品と直接向き合う機会を失わないように、そして各々が好きなように動きまわれるようにする、というビルとパートナーのキラの配慮からなのだそう。私は、時間かかってしまうのでいつも会場ではあまり説明を読まないで、見終わってから調べる方なので、解説文についての意図を考えたこともなかったです。それに彼らは、アートの批評は、解釈されすぎて、分析されすぎる傾向があるという理由で、あまり気にしないのだそう。

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 Ascension, 2000 Photo Kira Perov

特に10年前の記憶が今でも鮮明に残っていたのは、最後に展示されていた『Ascension』。水の中に人が落ちてきて水面に上がっていく、というのをスローモーションで見せている作品。森美術館では、水中を見立てた真っ暗な広い部屋に、とっても大きなスクリーンが4-5つくらい設置されていて、ランダムに人が落ちてくる、というものだったと思います。今回はスクリーンが一つだったのですが、メディアアートは特に、展示の方法で別ものに変化するのが面白いです。何も見えないので落ちる瞬間をとらえるのは難しく、いきなりバシャーンという音がしてびっくりして振り返ると、キリスト降臨のようなまばゆい光のしずくに包まれた人がいて、彼がゆっくり水面に上っていく=天に上っていくような様子だけを毎回目にするようになります。その水の中の光が本当に美しいのですが、ビルの作品では他にも水を使った作品が多くあります。それはビルが休暇で訪れた湖で溺れたとき、生と死との狭間で「今までの人生の中で最も美しい世界」の風景を体験したことにつながっています。
[youtube=http://www.youtube.com/watch?v=Ihoo3Z01paU]

今回初めて観た作品で面白かったのは、『Three Women』母親と娘二人と思われる三人の女性が、水の壁の粗い粒子の向こうの世界から、高画質のこっちの世界へやってきて、また戻っていく、という作品。高性能のカメラと、80年代のカメラを同時にまわして撮ったものなのだそう。
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Bill Viola, Fire Woman, 2005  Collection Pinault, Photo Kira Perov
それから、水と対照的な、火を使った、『Fire Woman』もものすごかったです。湖を囲む森の火事のような、暗闇の中で8メートルの炎の壁を背景に、女性が水にゆっくり後ろ向きに倒れていく作品。最後、倒れて水中に消えていく女性を追いかけるように、水面がズームアップされていき、そこにはどろどろの油膜のように炎のゆらめきが映りこみ、惹きつけられ吸い込まれそうで恐ろしかったです。

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Going Forth By Day (détail), 2002, « First Light » Weba Garretson, John Hay, Collection Pinault, Photo Kira Perov

ビル・ヴィオラは、ビデオアートの先駆者の一人。1951年ニューヨークに生まれのニューヨーク育ち。大学ではファイン・アートを専攻し、電子音楽を学び、ビデオに出会う。71年に最初の作品を発表し、その後ビデオ・アートの生みの親、ナム・ジュン・パイクのアシスタントとしても活動しました。80年にパートナーのキラと結婚し、その年に二人は日米文化交流のフェローシップとして日本に18ヶ月滞在、そのとき、ソニーの厚木にある研究所で、アーティストインレジデンスとしても迎えられていました。そこでは、仏教、日本の伝統文化や、最先端のビデオの技術などを学んでいた、という日本とも深い関わりのあるアーティスト。現在は、ロサンゼルスのロングビーチにある砂漠に囲まれたスタジオを拠点にして活動しています。

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初めてビルの作品を体験してから10年近く経って、今日ではビデオアートもメデイアアートも当たり前にどこでも観ることができるし、あの頃のような衝撃的な出会いはあまりしなかったのですが、10年前に遡って同時のことを思い出すことができました。ビデオを媒介にして、自分の内に潜んでいた記憶を呼び起こし、行き来できたことは面白い体験でした。これはたぶん、ただ目で観ただけではなくて、空間に一定時間いたことで全身で感じた、会場の重苦しい空気感や足で踏んでいく柔らかいカーペット、いすの座り心地の悪さなんかも合わさったことで、記憶に鮮明に刻まれたからなのかもしれないです。
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2014年5月17日土曜日

100周年を迎えたパリのシャンゼリゼ劇場!ニジンスキー、ピナ・バウシュによる『春の祭典』

ここ最近のブログでパリの1世紀前の建物や文化など懐古的な話が多くなってしまいましたが、今回は劇場の話です。パリにはオペラ座をはじめとして、今でも現役の古い劇場がたくさん残っています。逆に現代的な新しいものは少なくて、昔のものを大切にして使っている、そういうところもパリのいいところなんだと思います。そして、2013年に100周年を迎えたのが、シャンゼリゼ劇場、Théâtre des Champs - Elysees
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シャンゼリゼという名前がついているけど、凱旋門からコンコルド広場に向かってのびている賑やかな大通りのシャンゼリゼ通りにあるわでけはなく、そこから一本脇にそれた高級ブティックが軒を連ねる閑静なモンテーニュ通りに入って、セーヌ川がすぐそこに見えるところに位置しています。最近はオペラや音楽のほうに力をいれているような感じがしていて、コンテンポラリーダンス好きな私にとってはあまりなじみのない劇場です。たしか、最後に観たのは、ブランカ・リが明和電気とコラボレーションした「Robot!」。登場するロボットたちが全部かわいすぎでした。
2006年に公開された映画「モンテーニュ通りのカフェ」では、このシャンゼリゼ劇場の目の前のカフェに、劇場へ行き来するピアニストや女優などの人間模様が描かれていて、劇場まわりの雰囲気が味わえます。
[youtube=https://www.youtube.com/watch?v=hAF5RGL-VeA]
この劇場は、Gabriel Astrucガブリエル・アストゥリュク自身が莫大な資金を出して1913年に建設されました。ガブリエルは、1897年に音楽関連の出版社を創設。その後は、フランス国内のさまざまな劇場でコンサートやミュージカルを興行していた、舞台芸術のオーガナイザーとして活躍した人物。ガブリエルは、当時、舞台芸術界でとても影響力のあった人だったみたいですが、新しく建てたシャンゼリゼ劇場への投資によって、劇場が完成したその年に破産してしまい、その後は力を失ってしまったのだそう。全財産を投げ打ってまでガブリエルが建てたかった渾身の劇場が、一世紀を経た現在もパリの人たちに愛される劇場として残っていることが、とても感慨深いです。
1909年には、モダン・バレエの礎を築いた伝説のロシアのバレエ団、Ballets Russesバレエ・リュスを創設したセルゲイ・ディアギレフと出会い、パリでの初公演をシャトレ座で成功させました。そしてシャンゼリゼ劇場が1913年の5月に開館となりますが、そのこけら落としにもバレエ・リュスが選ばれました。プリンシパルダンサーだったニジンスキーが振付けを担当し、ストラヴィンスキー作曲の「Le sacre du printemps(春の祭典)」を発表します。
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初演当時の衣裳で再演されたときの写真。
[youtube=https://www.youtube.com/watch?v=BryIQ9QpXwI]
100年前の初演では、従来のバレエとあまりにも違い、その賛否両論で観客同士が殴り合ったり、野次で大騒ぎになった歴史に残る事件になりました。私は、クラシックバレエをほとんど観たことがなく、白鳥の湖やくるみ割り人形、って名前や音楽は知ってるけど、どんなストーリーでどんな振付なのか全然知りません。でも、ニジンスキーが振付した「春の祭典」は、クラシックバレエから想像できる、豪華な衣装で、優雅で繊細な美しさのイメージにほど遠いのが私にも分かります。
この100周年を記念して、シャンゼリゼ劇場では、3人の振付家によるそれぞれの「春の祭典」が上演されてました。まずはニジンスキーのバージョンの再演で、そのときの様子の映像がありました。また、ドイツの振付家、サシャ・ワルツも、100周年を祝して、新作「春の祭典」を発表。両方とも劇場に観に行けばよかったとすごく後悔。次の機会には絶対行きたいです。
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唯一観に行けたのは、ピナ・バウシュの振り付けによるヴッパタール舞踊団の公演。日本でも何度か上演されているし、ヴィム・ヴェンダースのドキュメンタリー映画でも登場している有名な作品です。

[youtube=https://www.youtube.com/watch?v=J4qm1wyzHwI]

席で待っているといきなり舞台には、土を目一杯詰め込んだ大きな荷車が運ばれてきました。どしん、どしんと、舞台に土が敷き詰められていき、二階席の舞台に張り出したバルコニーの席だったので、土の香りがほんわりとしてきて、それを身体に吸い込んで、シャンゼリゼ劇場に溶け込んだ気分で観てました。

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劇場の話に戻りますが、この建物は、オーギュスト・ペレ建築のコンクリートと大理石の劇場です。ペレについては以前のブログでも触れているので読んでみてください。→http://www.vogue.co.jp/blog/taco/archives/585
クラシックとアール・デコの混ざった内装で、フランス人画家3人がインテリアを担当。公演が終わったあと、館内を探検してみました。正面入り口からは、バレエやオペラなどが行われる写真にあるような大ホール。右のほうにもう一つ入り口があって、そこでは、演劇のホール、コメディ・デ・シャンゼリゼになっているのですが、まだ行ったことがありません。

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外壁は真っ白で、20世紀を代表するフランスの彫刻家アントワーヌ・ブールデルによるファサードで飾られてます。
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年末に、パレ・ド・イエナで行われていた、オーギュスト・ペレ展で展示されていた設計図の一部。
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携帯のパノラマアプリで撮ってみました。雰囲気伝わりますか?
豪華絢爛なオペラ座までとはいきませんが、螺旋階段や照明、劇場内の色使いもかわいらしく、見所いっぱいでした。公演が行われていない日は、見学ツアーも開催されているみたいです。
他の劇場と違って、安いチケットがあまりないので、チェックするのを忘れてしまいがちなのですが、来シーズンの予定もすでに発表されたようなので、早速調べてみようと思います!

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