2015年6月29日月曜日

日が長くなった春のパリの風物詩は、路上で繰り広げられるサーカス、ダンス、マリオネット!ナタリー・ペルネットによる『La Figure du gisant』

日本の6月はジメジメ蒸し暑い梅雨の時期ですが、パリは今週30度を超える夏日!!38度まで上がる予報も。それにどんどん日が長くなってきて、夜遅い時間帯なはずなのに、お昼過ぎみたいな空模様。まだ起きてなんかしなくちゃ!と急かされてるみたいです。
今月は、日本から麿赤児率いる舞踏の大駱駝艦、黒柳徹子さん主宰する日本ろう者劇団のの手話狂言や、ベルギーのダンスカンパニーのローザス、スペインを拠点にするジョゼ・モンタルヴォ、などなど面白そうなのがいっぱいで、毎週大忙しでした。それに加えて、たまたまネットで見つけたパリ市のイベントCirque et arts de la rue à Paris に参加してみたら、すごくすごく楽しかったです。
これは名前の通り、パリの公園や路上、広場といったパブリックスペースで行われるサーカスやアートの展示で、無料で楽しめる誰にでも開かれたイベント。パリ市、地方文化庁からの支援を得て、芸術文化をより発展させるために始まり、今年で10年目になるそうなのですが、初めて参加しました。演劇、ダンス、マリオネット、音楽、アートインスタレーションなどなど、いろいろあり、春の4ヶ月の間パリのあらゆる場所で行われてました。限られた人、空間で行われる劇場の公演とは違って、演じる 人と観客の距離が近くてすごく身近に感じられるし、偶然の出会いもあったりして、気軽さが魅力。普段あまりアートに触れない人たちも取り込んだ街ぐるみのイベントで、すべての人にアートを届けるという公共の芸術教育を目的としていているのがすごいと思いました。パリは無料で楽しめるアートイベントが本当にたくさんあって、こういったものがあるおかげなのか、芸術に関心のある人たちが増えて、それによってこれだけたくさんある劇場や映画館、美術館もいつもいっぱいで盛り上がりレベルも上がって相乗効果がもたらされてるんだと思いました。パリ市の芸術への惜しみない投資にはいつも驚かされます。
P6200496
このイベントを知ったのがもう最後の公演のときだったので、一つしか見れなかったのですが、ナタリー・ペルネットによる『La Figure du gisant』を観てきました。ナタリーは、フランスのクルーゾー出身で、クラシックバレエを学んだ後、2001年カンパニーを設立。ナタリーの作品の特徴は、劇場公演にこだわることなく、歴史的建造物や公園などの屋外で行ったり、また子どもから大人まで誰でも楽しめるような観客に寄り添いダンスへの情熱を共有するような作りをしている。
今回の作品、『La Figure du gisant』は、パリの南の端にあるモンスーリ公園で、もうすぐ日が落ちそうな空が暗くなってきたかなという21時45分から始まりました。ライトを持ってくるよう言われてたのですが、持っていくのを忘れてしまいました。ここはパリ国際大学の目の前にあり、ナポレオン3世のパリ大改造計画で造られたパリで4番目に大きな公園。そして納骨場の 上に造られた場所でもあるそうで、6000近くもの魂がさまよってると言われているので、夜になると不気味で怖いです。
P6200501
体から煙を出す不思議な魔法使いのような人に連れられていくと、そこには白い布に包まった屍体のように横たわっているダンサーたちが。しばらくすると、魔法使いが屍体をよみがえらせ、動き出してきます。
P6200510
P6200521
悪魔たちがむこうからやってきた!!
P6200531
P6200535
シーンごとに、公園の様々な場所に移動していくのですが、その道中でもさっきの悪魔が先回りしてびっくりさせてくるのが面白かったです。
P6200541
公園の銅像と一体化して、銅像から抜け出して動き出してきたよう。
P6200546
P6200551
P6200552
P6200565
森のなかに着くと、幽霊たちの儀式が始まってました。ひゅるるーっと散らばって消えてしまう。
P6200579
ほとんど真っ暗ななかで、 照明があてられてる広場に来ると、木々のざわめき、
P6200588
日も落ちて真っ暗なか、階段で灯を照らす演出もすてきでした。
P6200594
P6200596
P6200605
P6200614
森に覆われていているので、中に入ってしまうと、時間帯が怪しい暗がりを演出して周りが住宅地になっていることを忘れてしまい数百年前のどこかの村にタイムスリップしたような幻想的な空間でした。ダンサーたちと一緒になって公園のなかをぐるぐると歩いて、すぐ目の前に見てると、自分もリアルにその物語に入ってしまったような感覚がして、席に座って見ているよりもずっと臨場感がありました。それにもっと驚いたのが、プロのダンサーたちは5人しかいなく、あと20人くらいは、この公演のためにワークショップに参加した一般の人たちでした。これも、このイベントの醍醐味。
もっと他のサーカスや演劇も見てみたかったです!!来年に期待!
   
      Follow me : facebook

2015年6月23日火曜日

日本のテキスタイルアート、ファイバーアートの今を世界へ紹介する、『ファイバー・フューチャー』展がパリへ

IMG_2571
濱谷明夫  『W-Orbit』
この前パリで初めてお茶事に参加したのですが、学生以来8年ぶりですっかり忘れてしまってたので、先輩方と勉強をしに日本文化会館へ行ったのですが、そのときちょうど面白い展示が2階のギャラリーでやってました。『ファイバー・フューチャー』展という、テキスタイルアート、ファイバーアートを手がける30人の日本人アーティストたちの作品を集めた展示。テキスタイルアートと言っても、タペストリ、彫刻、インスタレーションといったものまで多岐にわたってます。素材もさまざなで、自然の絹、麻、綿、それから化学繊維、金属の繊維、などなど。それに、考えたら当たり前かもしれないですが、ひとりひとりオリジナルのコンセプトを持ち、“テキスタイルアート”としてひとくくりにしていいものか、と思ってしまうくらいでした。
この展示は、ニューヨークから始まり、ヘルシンキ、マドリード、ポルトガルのテキスタイルアートビエンナーレ、などを巡回しながら、パリに5月にやってきました。
テキスタイルアートが流行してきたのは最近のことで、歴史も浅く1960年頃から始まったと言われてます。 1962年に始まったローザンヌ・タピスリー・ビエンナーレでどんどんと盛り上がりを見せてきたようです。この展示は公募で選ばれた人たちなのですが、ローザンヌ・ビエンナーレの入賞者ですでに知られた先駆者の作家から、30代の新進の若手まで、今の日本を見ることができる展示になってました。

IMG_2548

田中秀穂『Vaniching and Emerging』

硬くごつごつした岩のようにも見え、角度によって違う表情を見せる不思議な感覚でした。



IMG_2545
中野恵美子『連なり カンボジアンレター』

和紙や絹、そしてカンボジアで偶然見つけた古いものなどいろんな素材が組み合わさっていて、生地に織られている作品。板締め縮みという特殊な技法を使っている。

IMG_2547

熊澤明子『デイジーチェーン』

子供の頃遊んだ、花の首飾りをイメージした作品と後で知ったけど、私には、口を開けているように見えました。吸い込まれそうな、そこに入ってみたくなりました。

IMG_2552
新井淳一

ファッションの世界でもいろんなブランドとコラボレーションしている、テキスタイルアートの重鎮の83歳にして現役作家の新井さん。2013年には東京オペラシティアートギャラリーで大規模な回顧展が行われて話題になってました。この作品は絞りの技法を使って、光沢の中に真ん中が透けたのれん。くぐってみたかった。

IMG_2538
小野文則『feel the wind』

化学繊維を使った特殊加工でできたぼこぼこ。壁から生えてきたような、生きてる細胞みたいな面白い作品でした。



布地が大好物な私個人的には、ただ見るだけではなく触るのがすごく好きなので、その手触りを確かめたくなる衝動に駆られました!!でも、そこは想像を膨らませ、我慢しました。それに、繊維は冷たい色をしていたとしても、どこか温かみを感じられるのがいいなと思います。絵画や彫像とは違って、服ではないけどアート作品として、うずくまれたり、包まれたりするような、皮膚感覚に訴えるような作品もあっても面白いなと思いました。

   
      Follow me : facebook

2015年6月2日火曜日

アンヌ・テレサとローザスの、9時間×2ヶ月踊り続ける展覧会『Work/Travail/Arbeid』

外国の投稿が続いてしまいましたが、今月3カ国目はベルギーのブリュッセルへ弾丸日帰り旅行。
なぜ日帰りでブリュッセルへ?というと、ベルギーを代表する振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル率いるダンスカンパニーローザスの展示『Work/Travail/Arbeid』『Work on Paper』 と、アンヌ・テレサ自身が踊るダンス公演『My Breathing is My Dancing』にどうしても行きたかったからです。3月から始まっていたのは知っていたのですが、5月初旬に締め切りの仕事が忙しくてさすがに無理だろうなぁと半ば諦めてました。でもやっぱり、一ファンとしてローザスの聖地でもあるブリュッセルの街で展示と公演を一度に観ことができるこの機会を逃すわけにはいかない!と、仕事が落ち着いてきた5月中旬、ふっと頭によぎって知らないうちにチケットを取ってしまってました。ローザスのことに対する行動力は、ものぐさ毎日を送っている自分とは思えないと、驚きます。考えてみれば全国各地をまわるアイドルの追っかけをする人たちと同じだし、グッズを集めたくなる気持ちもわかります。
ベルギー人のダンサーであり振付家のアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルは、ブリュッセルにあったベジャール・バレエ学校(現在はスイスのローザンヌ)でダンス学び、1983年にダンスカンパニー、ローザスを創設。現在ではブリュッセルを拠点にしながら毎日のように世界中で公演を行ってます。今年4月 には、久しぶりに東京芸術劇場でも『ドラミング・ライブ』の公演がありました。また1994年にダンス学校P.A.R.T.S.を設立し、ダンス教育にも熱心に取り組んでいる。6月に55歳になるアンヌ・テレサの勢いは年々増すばかりで、今年2月にオーストリア芸術科学十字勲章を受賞、そして3月にはヴェネチア・ビエンナーレのダンス部門で栄誉金獅子賞を受賞することが発表されました。
ローザスが展示をする!?というけど、いったいどんなものなんだろう?
最初に想像したのは、今から10年前、2005年に東京都写真美術館で行われたローザスの25年の展示で、そのときは写真と映像作品が中心でした。ローザスって何?コンテンポラリーダンスって?っていうくらいに何も知らないで行ったのですが、私はこのとき観た『Rosas danst Rosas』にものすごく衝撃を受けたことが印象深く残っています。このときを境に、ダンスや舞踏などの身体芸術へ興味を持つようになり、はまってしまいました。
あれから10年経って、今回ブリュッセルで観た彼女の展示は、前代未聞の踊り続ける展示方法でした。

P5140195



『Work/Travail/Arbeid』『My Breathing is My Dancing』
場所は二つの施設で開催されてました。まずは、Wielsという、ベルギーの現代アートシーンを牽引する今一番勢いのあるアートの複合施設。アールヌーヴォー建築で有名なブリュッセルでひときわ目立つ、1931年に建てられたベルギー人建築家アドリアン・ブロムによるモダニズム建築で、Wielsとしてオープンしたのは2007年。ギャラリーで現代アートを展示する傍ら、ほかに9つの部屋ではアートインレジデンスとなっていて若手アーティストが作品製作のために滞在していたり、独自のアートの教育にも力をいれている。
“ダンスパフォーマンスの振り付けを展示する意味とは”、という問いから始まった今回の『Work/Travail/Arbeid』は、ただ美術館でダンス公演をする、というものではありませんでした。劇場で観るダンスは決まった開演時間に始まり、舞台を前に指定された席に座って観る、という限定されたイベントであるのが一般的。それに対して、好きなときに行って、作品を自由な方向から鑑賞できる、というのが美術館。2013年に発表した、7人のローザスのダンサーと、現代音楽グループのIctusの6人の音楽家と指揮者からなる1時間強の作品、『Vortex Temporum』を、美術館の展示時間の9時間に拡大させて開館から閉館まで、ダンサーと音楽家の組み合わせを変えてずっと踊り続けるもので、舞台もない、席もない、始まりも終わりも曖昧にし、ダンスを彫刻作品のように自由に鑑賞。『Vortex Temporum』は、黒い床に黒い衣装だったけど、今回は、真っ白の部屋に真っ白の衣装でした。

P5140230
P5140233
P5140245
P5140290
P5140124
部屋には、 床にチョークで描かれた円の模様があるだけ。訪れた人たちは、壁にもたれたり、ダンサーたちが周りを動く真ん中の柱に座ったり自由気まま。ダンサーたちをデッサンしてる人も何人かいました。
この方法を、どんなダンス作品にも当てはめることができるか、というとそうはいかなくて、この元になった『Vortex Temporum』の、それぞれ独立した一人一人の動きが複雑に組み合わさって全体が作り上げられていく振り付けの特徴にあると思います。

IMG_2037
P5140335
  [youtube=https://www.youtube.com/watch?v=JFvrYy6EeWE]
Vortex Temporum

アンヌ・テレサの踊るダンス公演『My Breathing is My Dancing』は、時間になるとWielsの地下に連れていかれて展示『Work/Travail/Arbeid』 の部屋とそっくりな真っ白の部屋でした。同じように席はなく、壁にそってみんな座ったりして見てました。まずフルート奏者の女性が中央へやってきて、風の音のような 乾いた音色を響かせてました。展示『Work/Travail/Arbeid』から生まれた作品で、さっきの展示でのダンサーたちは真っ白だったけど、出てきたアンヌ・テレサは真っ青のトップスにベージュのパンツ、蛍光色のスニーカーでした。
図録ももちろん買って、公演後にサインもしてもらって、少しお話しもできて、もうほんときてよかったです。

P5140141
P5140135
P5140111
P5140115
『Work on Paper』 
もう一つは、Le Palais des Beaux-Arts(芸術の宮殿)と呼ばれるコンサートホール、ギャラリーの集まったアートセンター。世界遺産のアールヌーヴォー建築の邸宅で有名な建築家ヴィクトール・オルタの都市開発の一環事業で建てられたもの。
ローザスの初期の作品、『Violin Phase 』から、去年発表された、『Vortex Temporum』 までのアンヌ・テレサの振り付けの設計図が展示されてました。Wielsと連動してる展示で、『Vortex Temporum』 の映像が奥の部屋で流れてたので、まだダンス公演を観たことがなかった人たちもここで映像を見て、こういう仕組みだったのか!と理解できるようになってます。なんと太っ腹にも無料で開放されてました。
P5140033
P5140029
P5140062
ローザスの公演では舞台に円や放物線を組み合わせたり、黄金分割の長方形やそこから得られる星型が描かれていることがよくあります。なんでこんなにも、特にローザスのダンスに惹かれるんだろうと考えてたとき、動きと音の数学的図形の美しさが、自分にはとても心地よいんだと気付きました。これまで観てきた他の作品も思い返してみるとすべて動きの模様が浮かんできて、仕組みが分かるともっともっと面白くなってきます。小学生の頃から算数好きで大学も数学受験、今は3次元を平面に図形と数字のデータに落としていく仕事をしている自分には、まさにぴったりはまる。5月パリで2公演あった、心にじわじわきて3回くらい泣いてしまうピナ・バウシュの作品も大好きですが、それとは違って、どちらかと言えば情緒的なところはなくひんやりしているけど、でもとても気持ちがよくてずっと浸ってそこに漂っていたい気分になる。音と身体運動から生みだされる建築作品のような感じもします。
P5140107
ここ数年で出している振り付けの解説をしている作品集3冊全部最近やっと集めたのですが、汚したくなくてなかなか読めてないです。でも今回の展示を観て、もっともっと知りたくなってきたので恐る恐る開いてじっくり読み込もうと思いました。
ブリュッセルの街もいろいろまわろうと行きたいところ考えていたのに、思ってたよりすごく面白くて帰りの列車ぎりぎりまでいてしまい、結局この二つの施設だけで終わってしまいました。

P5140008
P5140009
P5140004
フランスのすぐお隣さんのベルギーの首都ブリュッセルへは、パリからは高速列車タリンで1時間半でついてしまう、国内旅行気分の手軽さ。車内でパスポートチェックもありません。ただ、トラムと地下鉄を、駆使する公共交通機関に慣れるのには時間がかかりました。でも、道を聞いたアフリカ系のメイクと格好が派手派手な女性が、とっても気さくでお喋りで面白くて、よそよそしいvous(あなた)でなくて、最初からフランクなtu(きみ)で話してくるのはパリと同じだなと思って嬉しかった。それから、くもの巣のように空を編む電線の多さにはおどろきました!
ブリュッセルがここまで気軽に来れてしまうということを知ってしまったので、街の散策もまだしてないし、ローザスのためにまた来てしまうんだろうなぁ。
   
      Follow me : facebook