2015年6月2日火曜日

アンヌ・テレサとローザスの、9時間×2ヶ月踊り続ける展覧会『Work/Travail/Arbeid』

外国の投稿が続いてしまいましたが、今月3カ国目はベルギーのブリュッセルへ弾丸日帰り旅行。
なぜ日帰りでブリュッセルへ?というと、ベルギーを代表する振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル率いるダンスカンパニーローザスの展示『Work/Travail/Arbeid』『Work on Paper』 と、アンヌ・テレサ自身が踊るダンス公演『My Breathing is My Dancing』にどうしても行きたかったからです。3月から始まっていたのは知っていたのですが、5月初旬に締め切りの仕事が忙しくてさすがに無理だろうなぁと半ば諦めてました。でもやっぱり、一ファンとしてローザスの聖地でもあるブリュッセルの街で展示と公演を一度に観ことができるこの機会を逃すわけにはいかない!と、仕事が落ち着いてきた5月中旬、ふっと頭によぎって知らないうちにチケットを取ってしまってました。ローザスのことに対する行動力は、ものぐさ毎日を送っている自分とは思えないと、驚きます。考えてみれば全国各地をまわるアイドルの追っかけをする人たちと同じだし、グッズを集めたくなる気持ちもわかります。
ベルギー人のダンサーであり振付家のアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルは、ブリュッセルにあったベジャール・バレエ学校(現在はスイスのローザンヌ)でダンス学び、1983年にダンスカンパニー、ローザスを創設。現在ではブリュッセルを拠点にしながら毎日のように世界中で公演を行ってます。今年4月 には、久しぶりに東京芸術劇場でも『ドラミング・ライブ』の公演がありました。また1994年にダンス学校P.A.R.T.S.を設立し、ダンス教育にも熱心に取り組んでいる。6月に55歳になるアンヌ・テレサの勢いは年々増すばかりで、今年2月にオーストリア芸術科学十字勲章を受賞、そして3月にはヴェネチア・ビエンナーレのダンス部門で栄誉金獅子賞を受賞することが発表されました。
ローザスが展示をする!?というけど、いったいどんなものなんだろう?
最初に想像したのは、今から10年前、2005年に東京都写真美術館で行われたローザスの25年の展示で、そのときは写真と映像作品が中心でした。ローザスって何?コンテンポラリーダンスって?っていうくらいに何も知らないで行ったのですが、私はこのとき観た『Rosas danst Rosas』にものすごく衝撃を受けたことが印象深く残っています。このときを境に、ダンスや舞踏などの身体芸術へ興味を持つようになり、はまってしまいました。
あれから10年経って、今回ブリュッセルで観た彼女の展示は、前代未聞の踊り続ける展示方法でした。

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『Work/Travail/Arbeid』『My Breathing is My Dancing』
場所は二つの施設で開催されてました。まずは、Wielsという、ベルギーの現代アートシーンを牽引する今一番勢いのあるアートの複合施設。アールヌーヴォー建築で有名なブリュッセルでひときわ目立つ、1931年に建てられたベルギー人建築家アドリアン・ブロムによるモダニズム建築で、Wielsとしてオープンしたのは2007年。ギャラリーで現代アートを展示する傍ら、ほかに9つの部屋ではアートインレジデンスとなっていて若手アーティストが作品製作のために滞在していたり、独自のアートの教育にも力をいれている。
“ダンスパフォーマンスの振り付けを展示する意味とは”、という問いから始まった今回の『Work/Travail/Arbeid』は、ただ美術館でダンス公演をする、というものではありませんでした。劇場で観るダンスは決まった開演時間に始まり、舞台を前に指定された席に座って観る、という限定されたイベントであるのが一般的。それに対して、好きなときに行って、作品を自由な方向から鑑賞できる、というのが美術館。2013年に発表した、7人のローザスのダンサーと、現代音楽グループのIctusの6人の音楽家と指揮者からなる1時間強の作品、『Vortex Temporum』を、美術館の展示時間の9時間に拡大させて開館から閉館まで、ダンサーと音楽家の組み合わせを変えてずっと踊り続けるもので、舞台もない、席もない、始まりも終わりも曖昧にし、ダンスを彫刻作品のように自由に鑑賞。『Vortex Temporum』は、黒い床に黒い衣装だったけど、今回は、真っ白の部屋に真っ白の衣装でした。

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部屋には、 床にチョークで描かれた円の模様があるだけ。訪れた人たちは、壁にもたれたり、ダンサーたちが周りを動く真ん中の柱に座ったり自由気まま。ダンサーたちをデッサンしてる人も何人かいました。
この方法を、どんなダンス作品にも当てはめることができるか、というとそうはいかなくて、この元になった『Vortex Temporum』の、それぞれ独立した一人一人の動きが複雑に組み合わさって全体が作り上げられていく振り付けの特徴にあると思います。

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  [youtube=https://www.youtube.com/watch?v=JFvrYy6EeWE]
Vortex Temporum

アンヌ・テレサの踊るダンス公演『My Breathing is My Dancing』は、時間になるとWielsの地下に連れていかれて展示『Work/Travail/Arbeid』 の部屋とそっくりな真っ白の部屋でした。同じように席はなく、壁にそってみんな座ったりして見てました。まずフルート奏者の女性が中央へやってきて、風の音のような 乾いた音色を響かせてました。展示『Work/Travail/Arbeid』から生まれた作品で、さっきの展示でのダンサーたちは真っ白だったけど、出てきたアンヌ・テレサは真っ青のトップスにベージュのパンツ、蛍光色のスニーカーでした。
図録ももちろん買って、公演後にサインもしてもらって、少しお話しもできて、もうほんときてよかったです。

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『Work on Paper』 
もう一つは、Le Palais des Beaux-Arts(芸術の宮殿)と呼ばれるコンサートホール、ギャラリーの集まったアートセンター。世界遺産のアールヌーヴォー建築の邸宅で有名な建築家ヴィクトール・オルタの都市開発の一環事業で建てられたもの。
ローザスの初期の作品、『Violin Phase 』から、去年発表された、『Vortex Temporum』 までのアンヌ・テレサの振り付けの設計図が展示されてました。Wielsと連動してる展示で、『Vortex Temporum』 の映像が奥の部屋で流れてたので、まだダンス公演を観たことがなかった人たちもここで映像を見て、こういう仕組みだったのか!と理解できるようになってます。なんと太っ腹にも無料で開放されてました。
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ローザスの公演では舞台に円や放物線を組み合わせたり、黄金分割の長方形やそこから得られる星型が描かれていることがよくあります。なんでこんなにも、特にローザスのダンスに惹かれるんだろうと考えてたとき、動きと音の数学的図形の美しさが、自分にはとても心地よいんだと気付きました。これまで観てきた他の作品も思い返してみるとすべて動きの模様が浮かんできて、仕組みが分かるともっともっと面白くなってきます。小学生の頃から算数好きで大学も数学受験、今は3次元を平面に図形と数字のデータに落としていく仕事をしている自分には、まさにぴったりはまる。5月パリで2公演あった、心にじわじわきて3回くらい泣いてしまうピナ・バウシュの作品も大好きですが、それとは違って、どちらかと言えば情緒的なところはなくひんやりしているけど、でもとても気持ちがよくてずっと浸ってそこに漂っていたい気分になる。音と身体運動から生みだされる建築作品のような感じもします。
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ここ数年で出している振り付けの解説をしている作品集3冊全部最近やっと集めたのですが、汚したくなくてなかなか読めてないです。でも今回の展示を観て、もっともっと知りたくなってきたので恐る恐る開いてじっくり読み込もうと思いました。
ブリュッセルの街もいろいろまわろうと行きたいところ考えていたのに、思ってたよりすごく面白くて帰りの列車ぎりぎりまでいてしまい、結局この二つの施設だけで終わってしまいました。

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フランスのすぐお隣さんのベルギーの首都ブリュッセルへは、パリからは高速列車タリンで1時間半でついてしまう、国内旅行気分の手軽さ。車内でパスポートチェックもありません。ただ、トラムと地下鉄を、駆使する公共交通機関に慣れるのには時間がかかりました。でも、道を聞いたアフリカ系のメイクと格好が派手派手な女性が、とっても気さくでお喋りで面白くて、よそよそしいvous(あなた)でなくて、最初からフランクなtu(きみ)で話してくるのはパリと同じだなと思って嬉しかった。それから、くもの巣のように空を編む電線の多さにはおどろきました!
ブリュッセルがここまで気軽に来れてしまうということを知ってしまったので、街の散策もまだしてないし、ローザスのためにまた来てしまうんだろうなぁ。
   
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