2012年2月21日火曜日

美輪明宏のドキュメンタリーを撮ったフランス人監督 パスカル=アレックス・ヴァンサンの語る日本のクラシック映画の魅力 Vol.2

前回の続きです。
美輪明宏のドキュメンタリー映画を撮ったフランス人監督のパスカル氏が、映画と美輪明宏について語ってくれました。
まだ読んでない方はこちら→http://www.vogue.co.jp/blog/taco/archives/1623
二回目の今回は、フランス人の目に映る日本のクラシック映画について聞いてみました。


<日本映画との出会い
パスカル監督が、美輪明宏のドキュメンタリーを撮りたいと思ったきっかけも、深作欣次監督映画『黒蜥蜴』だったことからも、日本映画、特に日本のクラシック映画が大好きな上にすごく造詣が深いことがうかがえます。
研究者でもない監督がなぜ、大学で教えるほどに日本の古典映画に精通しているかというと、1992年から2002年までの10年間、日本の古典映画専門の配給会社ALIVEで働いていたから。パリ第三大学で映画史を学ぶために地元のロワール地方からパリへ上京し、生活費を稼ぐために大学と平行して18歳からこの会社でスタージュを始めました。もともと、三島由紀夫、川端康成、谷崎潤一郎などの小説を読んでいたことから日本映画にも興味を持ち、この世界へ。卒業後もそのまま社員となりました。
90年代、日本企業がヨーロッパへ進出し、日本製の車やステレオが広まっていった時代の中で、日本の文化も次第に入ってくるようになります。当時、小津安二郎、溝口健二、黒沢明、はすでに有名な日本人監督としてヨーロッパでも人気があったけど、それ以外はほとんど知られていなかった。もっと観たいという要望が多くなったことで、初めて他の監督の作品もフランスに紹介していったのがALIVEでした。20代の若い感性を重宝され、自分の気に入った作品を自由に選ぶことができたパスカル氏は、日本にやってきては松竹、東宝、日活、東映などなどあらゆる映画会社をまわり、200を超える日本のクラシック映画をフランスへ紹介。その中には、ゴジラやモスラなどの怪獣映画のも入っていたのが面白い。日本映画にどんどんのめり込んでいった。働きながら監督として映画も撮り始めます。映画祭に出品するようになってから会社も辞め、映画製作に専念。またALIVEのオーナーが引退したことで会社も消滅し、その後はCarlotta Filmsがすべてを継いでいますが、販売しているDVDの裏の説明書きは今でもパスカル氏が頼まれ書いています。

<監督にとっての日本映画の魅力は?
パスカル氏のお気に入り映画監督は、深作欣二、成瀬巳喜男、市川崑 、そして鈴木清順。5−60年代の作品が特に好きなのだそう。余談ですが、市川(ICHIKAWA)を、“ISHIKAWA” ってフランス語で言うので、違う人なのかなと最初勘違いしてしまいました。
フランス映画との違いを聞くと、“フランス映画は話すシーンが多いのに対して、日本映画は、とても視覚に訴えるもので、形式的でより官能的。そして多様性があって魅力的で、いつも意外性に富んでるところが惹きつけられる。”という答え。女優さんでは、高峰秀子の大ファンで、サインも2回してもらったことがあるんだ!とにこにこしてました。
若い監督の中では、是枝裕和、黒沢清、それにアニメでは、今敏の『パプリカ』が大好き!大好き!と言ってました。実は、パスカル氏は、アニメ『キャンディーキャンディー』の男の子バージョンの『Candy Boy』という短編アニメも発表し、2007年にカンヌ映画祭と平行して行われる監督週間で紹介されている。
自分の作る映画のことは、自分では上手く説明できないけれど、少なからず影響は受けてると思うと語っていましたが、次回作『Dans La Foret』は、大林宣彦監督の77年に公開されたホラー映画『ハウス』からインスパイアされたもの。かなり楽しみです! 『ハウス』も久しぶりに観てみたくなりました。

<フランスでの日本映画の受け入れられ方
大学で学生たちに日本の古典映画を教えているパスカル氏。学生たちの反応はどうなのか、気になったので聞いてみると、「やっぱり現代と大きく違うサムライ、チャンバラ映画には興味をひいて、みんなすぐに好きになる」んだそう。
フランスでは映画はとても重要な文化の一つで、15歳からは毎週映画の授業があるなんてすごいと関心してしまいました。それに、小学生で小津安二郎の『生まれてはみたけれど』、中学生では『お早う』、高校生では黒沢明の『羅生門』をどの学校で観るというのは本当に驚きでした!!私なんて、小津安二郎の作品も、溝口健二も黒澤明も、大学生になって初めて観ました。日本の教育の中で映画というのはあまり重要視されてないように感じるのですが、日本の学生よりもフランスの学生たちの方が、日本のクラシック映画をよく知ってるんじゃないかと思います。でも逆に、「(フランスの若者は、)日本やアメリカのクラシック映画は映画館でも喜んで見に行くのに、フランスの昔の映画にはお金を払ってまで観ようとはしないんだ」、とも。結局、若い頃は自分の国の文化よりも外国に興味を持つのはどこの国でも同じような状況。
最近学生たちと話してて、現代の監督で人気があるのは三池崇、是枝裕和、河瀬直美だなと感じてるようです。それでも現代の作品よりも圧倒的に、クラシック映画のほうがフランスでは知られている、というのはとっても意外でした。黒沢明監督の「七人の侍」の三船敏郎や、小津作品常連の女優、原節子は、フランスでは誰もが知ってる映画スターなのに、現代の俳優女優は一般的にはほとんど知られてないのだそう。
大学から頼まれて始めた日本映画の講師の仕事でも、「今日の映画を理解する上でも、昔の映画をみることはとても重要で映画をより深く学ぶことができる。映画を勉強していていずれは映画を作りたいと思ってる学生たちは、普遍的で、時代を超越した日本のクラシック映画に精通してる必要がある!!」という信念のもと、講義内容も工夫したり、やりがいを感じながら楽しんでる様子でした。次の日に使おうと思ってるDVDをさっき図書館で借りてきたんだと言ってみせてくれたのは、木下恵介監督の映画『楢山節考』。それに去年は見せなかったけど、フランスではDVDも出ていないほとんど誰も知らない松本俊夫も学生たちに紹介したいと思ってると意気込んでました。去年は8人しかいなかった自分の学生が、評判を聞いて今年は47人も集まって教室がぎゅうぎゅう積めなんだ、と監督は嬉しそうに笑ってました。すごく面白そうだから、私も授業受けてみたくなってしまいました!!
私は、フランス人の友人のほうが、日本について知っていることがたくさんあって、うれしいと思う反面、だめだなぁと情けない気持ちにもなったりします。 だから最近は、日本の文化にももっともっと知りたいと、知らないといけないと思うようになってます。前述した日本映画を研究している大学院生の友人が、日本映画のオススメDVDを会うたびに貸してくれるので、それを観たり、今、パリ日本文化会館では、「大映撮影所」の特集が組まれ、映画をたくさん上映しているので観に行ったりしてます!始まる前は長い列をなしてるし、かなりの席が埋まってしまうほどの人気ぶりです。
PX
パスカル=アレックス・ヴァンサン Pascal-Alex Vincent
2000年から映画製作を始め、2005年のカンヌ映画祭で短編映画『Bébé requin』がパルムドールにノミネートされる。2009年に初の長編映画『 Donne-moi la main』を発表。ヨーロッパ各国、アメリカなど世界中で上映された。現在、日本の70年代のホラー映画からインスパイアされた、『Dans La Foret』を製作中。フランスでは今年の夏に公開予定。日本で日本人俳優、日本人クルーたちと映画製作するのが夢。
[youtube=http://www.youtube.com/watch?v=iFRi8YkA9GE]

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