2015年8月2日日曜日

パティシエからも注目を集める茗荷谷の和菓子屋、一幸庵の織りなす季節を視覚で堪能する

2013年12月、日本人の伝統的な食文化として、『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録され大きな話題となってからもうすぐ2年になろうとしています。美食の国フランスでの日本食ブームは今に始まったことではないですが、パリの日本食レストランはいつも長い列ができていたり、私のまわりのフランス人も日本食好きが多く、その勢いはますます高まっていきそうだなと感じてます。そして、日本食レストランだけではなく、スイーツの都パリでは、抹茶やあんこを使ったお菓子もあちこちで見かけるようになりました。
海外では和食のヘルシーさがもてはやされることが多いけど、文化遺産の『和食』の特徴として、自然の美しさや季節の移ろいの表現年中行事との密接な関わり、も挙げられています。
あまり意識しないまでも季節による自然の変化を愛でる日本人の感覚は、食文化にも表れて、その究極的なのが、拳半分程度の大きさに凝縮された季節感を味わう和菓子なんじゃないかと思います。
去年の今頃、パリで本格的な和菓子をいただけるお店、和楽を紹介しました。今年の夏は、フランスのヴァローナや、ジャン・シャルル・ロシュといったショコラティエとコラボレーションしていたり、洋菓子の世界からも教えを請うパティシエが後を絶たない、洋菓子界からも愛され異彩を放つ、東京の茗荷谷にお店を構える和菓子屋さん「一幸庵」を訪ねました。
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初めて茗荷谷の駅を降りました。ギラギラした喧騒から少し離れた場所にあり、どこか地方都市っぽい感じもする、ゆっくり歩いてても大丈夫な落ち着く町。南北に走る春日通りから一歩入ると、暑い日差しの中控えめながらもずっしり構える真っ白なのれんは、この空間だけ凛とした涼しさを感じました。
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大通りから隠れてるので、ふらっと偶然見つけて立ち寄る場所というよりは、大袈裟な装いもなく知る人ぞ知る名店という感じ。遅めの昼下がり、店内は一幸庵のお菓子を買い求める女性客でいっぱいでした。
ご主人の水上力さんは、1948年東京に和菓子屋さんの四男に生まれ、71年から京都、名古屋で修行をし、77年に東京のこの場所に一幸庵を構えました。
つい最近、フランスから科学雑誌の協会メンバーが団体で見学に来たんだよ。と食の分野以外からも注目を集める水上さんの和菓子。日本国内のみならず、世界中から熱い眼差しを注がれるその秘密は、昔からの伝統を大切にしながらも、独創的で抜きん出た圧倒的な表現力。そして何よりも、外国の人をあまり弟子にとりたがらない和菓子職人さんたちが多いなか、世界に目を向けている視野の広さにあると思いました。
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和菓子という言葉は、明治時代に西洋文化が入ってきて広まってきたことで、洋菓子と区別するために大正時代に造られたのだそう。和菓子の起源の古くは、遣唐使が持ち帰った唐のお菓子や、ポルトガル、スペイン、オランダからカステラ、金平糖などがもたらされ、それらによって発展してきました。その後、鎖国の状況下や茶の湯の文化と相まって、日本人独自の解釈により、より洗練されたものへ昇華されてきた歴史があります。
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水上さんのお話のなかで、なるほどと思ったのが、現代は外国のものでも、いつでもどこでも食べられる時代になったことで、外国から入ってきたものを、日本のものに変える必要性がなくなってしまった。文化というのは本来時の流れのなかで進化していくものなのに、和菓子は伝統を守るだけに徹してしまっているということでした。また、職人自身がその殻を破るのは難しいから、ディレクションをしてくれるような人がこれからは必要だと繰り返し話していたのが印象でした。
日本がもし開国して西洋文化がどっと入ってこなかったら、今ごろ日本は文化だけで食べていけていたはずだった。それほど、日本文化は世界に誇れる素晴らしいもの、とも。
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その一幸庵の長年の常連さんが、一幸庵の和菓子を次の世代に残したいという願いから、集大成の本がもうすぐ出版されることになりました。内容は、七十二候、という72の季節を表す言葉から水上さんが創り出したオリジナルの和菓子 を、季節の説明とともに細部の質感まで感じられる写真で構成されています。七十二候というのは、普段よく使われている、立夏や夏至などといった、古代中国から伝わった二十四節気を、さらに5日づつに三つに分けたもの。例えば、今だったら、7月28日から8月1日頃は土潤溽暑つちうるおうてむしあつし、8月2日から7日頃は、大雨時行たいうときどきふる、といった具合。
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本に載っているもののなかには、店頭で季節の生菓子として並ぶものも含まれますが、ほとんどがこの本のために新しく考案されています。構想から約10年ほどかけて、やっと完成に至った道のりのなかで、一番最後まで粘ったのは、水上さん本人だったのだそう。何度も何度も試行錯誤の上、選ばれた72種。和菓子といっても、これだけ形も色も様々で、こういう表現の仕方があったんだと、和菓子の可能性が広がったように思いました。今日は、どんな季節で、どんな和菓子なんだろうとカレンダーみたいに飾ってみるのも楽しそうだし、外国の人たちには、和菓子を通じて日本人の季節感も一緒に目で味わってもらえそうな本です。
[youtube=https://www.youtube.com/watch?v=vnHSN8FiuMU]
本が気になる方はぜひぜひこのサイトをチェックしてください!!→https://greenfunding.jp/miraimakers/projects/1037
でも和菓子好きな自分としては、やっぱり見ているだけではなくて、全種類味わってみたいなというのが本音。
この本をきっかけに、フランスのギャラリーで和菓子の展示をしたり、講演を開いたりする日も近いと思うので、とっても楽しみにしています!!
✳︎写真はすべて堀内誠さんによるものです。
一幸庵 〒112-0002 東京都文京区小石川5-3-15
   
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